ポーターに学ぶ正しいマーケティング戦略、間違ったマーケティング戦略

マーケティング戦略が企業にとってどれほど重要かは、誰もが理解しているだろう。しかし、戦略について、正しい理解のもとに策定している会社は、はたしてどのくらいあるだろうか。

ネットで「マーケティング戦略」を検索すると解説記事がたくさん出てくる。しかし、その内容は玉石混交で、内容に疑問を抱くようなもの、コピーのそのまたコピーと思われるものが多い。マーケティングに関する書籍もたくさんあるが、説明がわかりにくかったりで、マーケティング戦略とは何かをわかりやすくまとめた説明があれば良いのに、と感じた。

ありがたいことに、今はネットを開けば、経営学の権威マイケル・ポーターやフィリップ・コトラーの過去の講演を直接、聴くことができる。この記事では、マーケティング戦略に関するマイケル・ポーターの講演のうち、筆者が感銘を受けたものからエッセンス部分を抜粋し、日本語でまとめた。読者諸氏の参考になれば幸いである。

マーケティング戦略とは「どうやって成功に到達するかを明確にする」ロードマップ

マーケティング戦略の定義

マイケル・ポーターは「戦略とは、どんな成功を手に入れたいのか、どうやってそこに到達するかを明確にすること」と説明している。

即ち、マーケティング戦略策定においては、まず目指す成功(=ゴール)を設定し、ゴール達成のために何をやるか(=戦略)を明確に設定する必要がある。

  1. ゴール設定:達成したい中長期のゴール、すなわちどんな成功を手に入れたいかを設定
  2. ビジネススコープ:どのビジネスでゴールを実現するか、どの市場・顧客をターゲットにするか=成功を得たい市場、顧客、商品は何か
  3. 差別化(バリュープロポジション):自社は他社とどう違う形で戦うか、どんな付加価値を提供するか

ここで注意したいのは、戦略がゴールではないことだ。戦略は、ゴールをどう実現するかなので、上記で言えば2、3が戦略部分だ。

多くの企業が正しい戦略を設定できていない

正しいアプローチは「ベストであることを競う」 のではなく「 ユニークさを競う」

ポーターは、「多くの企業が誤ったマーケティング戦略を設定している」と話す。とくによくある間違いとして彼があげているのは、業界内、商品カテゴリー内での「ベストを目指してしまうこと」で、ポーターは「ベストを目指すことは戦略ではない」と指摘している。

なぜベストを目指すことが間違いなのだろうか。

理由は簡単。何がベストかは顧客によって異なるからだ。すべての人のニーズを満たすことは不可能であり、したがって、すべての人にとってベストな会社はあり得ない。

戦略の本質は、ビジネスにおける独自のポジションを見つけることである。企業が問うべきは、「どの顧客のどんなニーズに応えるか」「どうしたら、他社にはないユニークな付加価値を提供できるか」だ。このユニークな付加価値をユニーク・セリング・ポイント、あるいはその頭文字を取ってUSPと言う。

もうひとつの大きな間違い「競合他社と同じ土俵、同じ方法で勝とうとすること」

競合他社のあと追いで、競合に勝つのは容易ではない。他社と同じやり方を他社よりも少し良く行うことで勝とうとすることを「オペレーショナル・エクセレンス」と呼び、これは厳密には戦略とは言えない。

戦略には「他社と違うやり方でどう戦うか」「他社にはない、優位性をどう作り出すか」が必要だ。他社と同じ土俵で戦わず、対象顧客を変えたり、これまでにない消費目的を生み出せば、市場全体の広がりにもつながる。

他社と同じ土俵で戦わない、差別化が大事、と言うのは簡単だが、実践することは難しい。いまだに他社に追いつき・追い越すことを戦略におき、競合と大差ないやり方で競争を続ける企業は多い。ポーターも「多くの企業が同じ過ちを犯している」と説明している。 

戦略をバリューチェーンに落とし込む

戦略の大枠が決まったらバリューチェーンを通じてどう提供するかを考える

ターゲット市場、顧客、USPが決まったら、次はそれをどうバリューチェーンに落とし込むかを考える必要がある。バリューチェーンとは、商品が仕入れから顧客の元に届くまでの一連の流れを指す。

技術開発、生産、物流、価格、マーケティングコミュニケーション、プロモーション、販売など、対象ビジネス(製品・サービス)にかかわるバリューチェーン・マップを書き出し、付加価値を生み出すための中長期計画を策定する。

ユニークな価値提案を実現するためには、既存のオペレーションを変える、ソーシング(資源を調達する調達元)を変える、といった意思決定なども必要になるだろう。

マーケティングエクセレンスでよく取り上げられるP&Gは、付加価値提供のために自社の研究員の10倍以上の外部研究者と協働していると言われる。オープンイノベーションが叫ばれて久しいが、ユニークさを競うためには、P&Gのようなマーケティングに優れた会社でも、常に貪欲にアイデアや技術を求めているのだ。

マーケティング戦略策定におけるCEOの役割

CEOは最高戦略責任者でなければならない

各ビジネスにおける戦略は担当役員やライン長が策定する。しかし、担当役員・ライン長は自身の責任範囲のことは真剣に考えても、必ずしも会社全体のビジネスを俯瞰して戦略を考えているわけではない。会社全体を俯瞰して意思決定ができるのはCEOだ。

マーケティング戦略は、経営戦略の重要な一部分だ。ポーターは、CEOの役割として、戦略設計プロセスから、戦略遂行中のモニタリング、結果のレビューまで、責任者・まとめ役として、CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー:マーケティング最高責任者)と連携しつつ、CEOが戦略策定のプロセスをリードする必要があると言っている。ステークホルダー、とくに取締役会との意見調整などはCEOの重要な役割となる。

良いマーケティング戦略はすべての顧客を幸せにしない

良いマーケティング戦略の条件は「明確さ」と「すべての顧客を幸せにしない」こと

前述したように、良いマーケティング戦略には明確さが求められる。戦略には中長期にわたって多くの人が関わるので、関わる人たちがおのおのバラバラな方向に進んでいかないように、理解の齟齬が生じさせないことが重要だ。

さらに、ターゲット顧客を決めるということは、ターゲットでない顧客も明確にするということになる。すべての顧客が幸せにならないということは、その戦略がよいものであるひとつの証拠でもある。ポーターは、自身の娘にIKEAの家具を購入した時の話を例に出し、以下のように説明していた。

IKEAの家具を買うために、ポーターお父さんは巨大な店内で商品を選び、倉庫のような在庫置き場で迷いながらも商品をピックアップして車に積み込み、やっとの思いで娘のところに届けてから、40分もかけて組み立てなければならなかった。
スタイリッシュで安価な家具を買えたことにポーターの娘はとても喜んでいたが、ポーターは決してハッピーではなかった。IKEAはターゲット層である娘世代はハッピーにしているが、その親世代をハッピーにしているわけではない。

これは戦略として正しい、とポーターは言う。

手法、フレームワーク…マーケティング戦略は広く深い

本記事がカバーしたのはマーケティング戦略の基本の基本

以上、本記事では、マーケティング戦略を正しく理解するためのポーターの理論を、はなはだ簡単ではあるが説明した。戦略策定には主要な考え方(フレームワーク)も知っておく必要がある。フレームワークについては以下の記事で説明しているので、興味がある方は、ぜひそちらもご一読いただきたい。

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Ryoji Takada

Ryoji Takada

座右の銘は質実剛健。PDCAをやり遂げプロジェクト収益化まで愚直にやるのは得意分野。あだ名は夜桜で、昔は格闘技のプロであった時の名残。バイクとファッションと格闘技が好き。

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